シンドウ  マサヒロ
  真銅 正宏
   所属   追手門学院大学  学長
   職種   学長
言語種別 日本語
発行・発表の年月 2021/12
形態種別 その他
標題 香りと文学
執筆形態 単著
掲載誌名 ダ・ヴィンチ
掲載区分国内
巻・号・頁 44-45頁
総ページ数 2
概要 嗅覚は、五感の中でも最も失われつつある感覚である。人類の直立歩行が始まり、大地から鼻の位置が遠くなって以来、視覚と聴覚が発達するのと引き換えるように、土を触る触覚、落ちているものを毒かどうか峻別する味覚、そして犬のマーキングのような信号確認としての嗅覚は、さほど必要とされなくなった。その一方で、二足歩行のおかげで手や指は器用さを増し、料理の技術と多様な味を大切にする文化も進展したため、触覚と味覚も急激な鈍化を免れているが、嗅覚だけは、世の無臭化の傾向もあり、ひたすら鈍くなり続けているようである。テレビや現在主流のインターネット動画にも、映像と音しかない。匂いや触感などは想像で補うしかない。これが我々の五感の不均衡な現状である。逆に言えば、文字だけでできた小説などには、映像や聴覚もなく、すべて想像するしかないので、想像力の下では平等である。文学に香りが効果的に描かれた例として、森茉莉「甘い蜜の部屋」、古井由吉「杳子」、村上春樹「ノルウェイの森」、川端康成「眠れる美女」の文章を挙げ、その様相を分析する。