ヤマモト ケンジ   Kenji Yamamoto
  山本 顯治
   所属   追手門学院大学  法学部 法律学科
   職種   教授
発行・発表の年月 2022/03
形態種別 論文
招待論文 招待あり
標題 契約類型の戦略的選択 -strategy of contract choice-
執筆形態 単著
掲載誌名 磯村保=後藤巻則=窪田充見=山本敬三編著『法律行為法・契約法の課題と展望』(成文堂)
掲載区分国内
出版社・発行元 成文堂
巻・号・頁 217-243頁
担当区分 筆頭著者,最終著者,責任著者
著者・共著者 山本顯治
概要 わが国の契約法学には戦略論がない。民法第三編第二章のいわゆる契約各論と呼ばれる領域では、売買契約、賃貸借契約、請負契約等の契約類型が別個独立に論じられるに過ぎない。総論的に各契約類型の特質が比較される場合であっても、財産的権利の包括的移転を特質とする譲渡型契約、期間を限定した使用・収益権の移転を特質とする貸借型契約、労務の提供を特質とする役務提供型契約といった「類型への当て嵌め」を念頭においた分類論に終始している。個別契約に目を転じても、例えば譲渡型契約の典型である売買契約においては多様な財が対象となっているのに対し、貸借型契約の典型である賃貸借においては対象となる財は土地$・$家屋に限定されており、この落差に疑問を呈する見解は稀である。その結果、売買契約が譲渡型契約の中核として財産的権利の包括的移転についての一般的ルールを提供しているのに比べ、賃貸借契約は借地借家に関する一般法の域を出ないものとなっている。わが国の契約各論で論じられる賃貸借契約は、ビジネスの現場において様々な形で戦略的に用いられている貸借型契約をおよそ捉えたものとはいえず、貸借型契約の中核として一般的ルールを提供するものとはなっていない。
わが国の静態的分類論においては「各契約類型が対象とする取引は異なる」ことが暗黙裡に前提とされ、そのため当事者による契約類型の戦略的な選択という問題が議論の俎上に載せられることはない。あるビジネスに携わる当事者が売買契約、賃貸借契約、雇用契約等の契約類型をどのような理由で選択するのか、当該ビジネスにおいてなぜ賃貸借契約が選択され、売買契約、雇用契約が選択されなかったのかを問い、その基礎にあるロジックに光を当てようとする問題意識をそこに見いだすことはできない。さらに、当事者が典型契約になぜ満足できず非典型契約を創案せねばならなかったのか、その必然性はどこにあるのかという問題提起がなされることもない。売買契約を締結するのか、それとも賃貸借契約や雇用契約を締結するのか、あるいは非典型契約を創案するのかという契約類型の選択問題はビジネスを遂行する当事者にとって極めて重要な問題であるにも関わらず、この問題は現在のわが国契約法学にとっては理解の範疇外である。
そこで本稿は、ビジネスを遂行しようとする当事者が、どのような戦略に基づきある契約類型を選択し、あるいは新たな契約を創案するのかという問いを立て、「契約類型選択の基礎にあるロジック」について考察した。本論文では、契約類型の選択は「リスク・シェアリングとインセンティブ付与のトレード・オフ」のもとで、いずれの要因を重視するかにより戦略的になされることを明らかにした。本論文は、ビジネスを遂行しようとする当事者が、どのような戦略に基づきある契約類型を選択し、あるいは新たな契約を創案するのかという問いを立て、「契約類型選択の基礎にあるロジック」について考察するものであり、統一的な理論枠組みに基づき契約類型の特質・機能を明らかにしつつ、契約類型の戦略的な選択という観点をわが国の契約法学に導入しようとする試みの第一歩である。